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英雄たちの探求
英雄たちの探求
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英雄たちの探求

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「シルバー騎士団を侮辱した場合の罰を知っているのか?」ぴしゃりと言った。

ソアの心臓が激しく鼓動する。それでも後には引けないと思った。

「お許しください、上官どの。」父が言った。「まだ子どもですから・・・」

「そなたに話しているのではない。」と軍人は言った。容赦のない目つきでソアの父を退けた。

軍人はソアのほうを向き、「答えなさい!」と言った。

ソアは息が詰まって声も出ない。こんなはずじゃなかった。

「シルバー騎士団を侮辱するのは国王陛下を侮辱することである。」ソアは従順に覚えていたことを唱えた

「いかにも」軍人が言った。「つまり、私がそう決めたら鞭打ちの刑40回を受けることになる。」

「侮辱するなんて考えてもいません、上官どの。」ソアは言った。「選ばれたかっただけです。お願いです。ずっとそれが夢だったのです。お願いします。入隊させてください。」

軍人は立ち尽くし、次第に表情が和らいでいった。しばらくしてから首を振った。 「君はまだ若い。気高い心を持っているが、まだ時期尚早だ。乳離れしたら戻ってきなさい。」

それだけ言うと彼は振り向いて、他の少年には目もくれずに行ってしまった。そして馬に素早く乗り込んだ。

ソアはがっかりして立ったまま、軍団が行動を起こすのを見つめた。到着した時と同じ速さで去って行った。

最後にソアが見たのは、後部の馬車に座っている兄たちだった。とがめるような目で嘲りながらこちらを見ていた。ソアの目の前で、馬車で連れて行かれるのだった。ここから、より良い人生へと。

心の中で、ソアは死んでしまいたい気持ちだった。

彼を包んでいた高揚した気持ちが引いていくのと同時に、村人たちはそれぞれの家へ帰って行った。

「お前はどれほどばかなことをしたかわかっているのか?」父がソアの肩をつかみながらきつく言った。「兄さんたちのチャンスをつぶすことになったかも知れないのをわかっているか?」

ソアは父親の手を乱暴に振りほどいた。父は再び手を伸ばし、ソアの顔を手の甲で叩いた。

刺すような痛みを感じ、父をにらみ返した。生まれて初めて、父に殴り返したい気持ちが自分の中に芽生えたが、それを抑えた。

「羊をつかまえて戻しなさい。今すぐに!戻っても食事があると思うな。今晩は夕食抜きだ。自分のしたことをよく考えてみなさい。」

「もう戻らないかも知れないさ!」ソアはそう叫ぶと丘に向かって家を出て行った。

「ソア!」父が叫ぶのを村人たちが立ち止まって見ていた。

ソアは早足で歩き、そして走り始めた。ここからできるだけ遠くへ行ってしまいたかった。夢がすべて打ち砕かれ、泣いて、自分の涙が頬を伝っていることにさえ気づいていなかった。

第二章

ソアは、怒りではらわたが煮えくり返る思いを抱えながら丘を何時間もさまよった後、選んだ丘の上に腰をおろした。脚の上で腕を組み、地平線を眺めた。馬車が消えていくのを、時間を経てもなお残る雲状のほこりを見つめた。

もう軍団が村にやってくることはないだろう。今となっては、自分はこの先何年も次のチャンスを待ちながらこの村にとどまる運命にある。たとえそれが二度とやってこないとしても。もし父が許してくれさえしたら。これからは家で父と二人だけだ。父は自分にありったけの怒りをぶつけてくるだろう。自分はこれからも父親のしもべであり続けるだろう。そして年月が経ち、自分もやがて父のようになるのだろう。兄たちが栄光と名声を手に入れる一方で、ここに埋もれ、つまらない日々を送る。血管が屈辱で焼けるようだ。これは自分が送るべき人生ではないということが彼にはわかっていた。

ソアは自分に何ができるか、どうしたら運命を変えられるか知恵を絞って考えたが、何も浮かばなかった。これが、人生が自分に配ったカードなのだ。

数時間座ったままだったが、やがて落胆した様子で立ち上がり、歩き慣れた丘を横切りながらずっと高く登り始めた。否応なく、羊の群れのいる高い丘のほうへと漂うようように戻って行った。登っていく時に一番目の太陽は沈み、二番目の太陽が最も高い位置につき、緑がかった色合いを投げかけていた。ソアは時間をかけてゆっくり歩きながら、特に考えもなく、長年使って革のグリップがすり切れた投石具を腰から外した。腰にくくりつけてある袋に手を伸ばし、集めた石を手で探った。良い小川から拾ってきた、滑らかな石で、鳥や、また時にはねずみに当てることもあった。長年の間に染み付いた習慣だ。最初は何にも当たらなかったが、そのうち動く標的をしとめたことも一度あった。それからソアのねらいは確実になった。今では投石はソアの一部となっていた。それに怒りをいくらか解消するのに役立った。兄たちは丸太に剣を突き通すことができるだろうが、石で飛ぶ鳥を落とすことはできない。

ソアは無心で投石具に石を置き、背中をそらせると、父に向かってそうするかのように全力で投げた。遠くの枝に当たって、ばっさりと落ちた。動いている動物を殺すこともできるのに気づいてからは、自分の持つ力が怖くなり、何も傷つけたくないと思って動物をねらうことはやめた。今では的は枝だ。が、きつねが羊の群れの後をつけてきたときは別だ。やがてきつねは近づかないことを学んだ。そのためソアの羊は村で一番安全が保証されている。

ソアは兄たちのことを、今彼らがどこにいるのかを考え、腹が立った。馬車で丸1日行けば王の宮廷に到着するだろう。ソアにはそれが見えるようだ。盛大なファンファーレと共に到着し、美しい衣服を身にまとった人々が彼らを迎える。戦士たちも挨拶を返す。シルバー騎士団のメンバーたちだ。彼らは迎え入れられ、リージョンの兵舎内に住む場所を、王の訓練場を、最高の武器を与えられる。それぞれ有名な騎士の見習いとして任命される。いつかは彼ら自身も騎士となり、自分の馬、紋章、そして見習い騎士を持つことになる。祝祭にはすべて参加し、王の食卓で食事をとる。特権を与えられた生活。だが、それはソアの手をすり抜けた。

ソアは気分が悪くなってきたが、それを意識から消し去ろうとした。だができなかった。彼の一部が、どこか深いところで自分に向かって叫んでいた。あきらめるな、もっと素晴らしい運命が用意されているのだ、と彼に言う。それが何かはわからなかったが、ここにないことだけはわかる。ソアは、自分は他の人と違っていると感じていた。特別なのかも知れないとさえ。誰も理解しえない何か。誰もが過小評価している彼の何か。

ソアは最も高い丘に着いたところで羊の群れを見つけた。訓練が行き届いているので、皆ばらばらにならずに、手当たり次第に満足そうに草を食んでいた。羊たちの背中に彼自身がつけた赤い印を探して数を数えた。数え終わった瞬間、凍りついた。1頭足りない。

何度も数えなおした。やはり1頭いない。信じられない思いだった。

ソアは羊を見失ったことなど今まで一度もない。 父はこの償いさえさせないだろう。もっと嫌なのは、羊が荒野に一頭だけで迷い、危険にさらされているということだった。罪のないものが苦しむのは見たくなかった。

ソアは頂上まで走り、はるか遠く、いくつもの丘の向こうの地平線をくまなく探し、見つけた。一頭の、背に赤い印をつけた羊を。群れのなかでも暴れんぼうの羊だ。逃げ出しただけでなく、よりによって西の方角、暗黒の森へ向かったことがわかり、ソアの心は沈んだ。

ソアは息をのんだ。暗黒の森は禁断の場所だ。羊だけでなく、人間にとっても。村境の向こうへは、歩き始めた頃から決して行ってはいけないと知っていた。もちろん行ったことなどない。道もなく、邪悪な動物の住む森に入ることは死を意味すると言い伝えられてきた。

ソアは考えをめぐらしながら暗くなりつつある空を見上げた。自分の羊を行かせるわけにはいかない。素早く動けば、暗くなるまでに連れ戻すことができるかも知れない。

一度だけ後ろを振り返ったのを最後に、ソアは西へ、暗黒の森へと全力で疾走した。空には暗雲が立ち込めている。沈み込む心とは裏腹に、足はどんどん前へ進む。いくらそうしたくても、振り返るものかとソアは思った。悪夢へ向かって走るようだった。

*

ソアは丘も止まることなく走り下り、空が暗く覆われた暗黒の森へと入って行った。森の入り口で道は途切れている。道のない領域へと入って行く。足の下で夏の葉が砕ける音がした。

森に入った瞬間、暗闇に包まれた。光は頭上高くそびえる松の木に遮られている。中は寒かった。森の境を超えるとき、寒気がした。暗闇のせいでも、寒さのせいでもない。何か別の理由によるものだ。何とも言えないもの。何かに見られている、そんな感覚だ。

ソアは、風に揺れてきしる、こぶだらけで、自分よりも太い古木の枝を見上げた。森に入ってからまだ五十歩というところで、奇妙な、動物の音を聞いた。振り返ると、自分が通ってきた入り口はもう見えない。早くも出口が存在しないような気になっていた。ソアはためらった。

暗黒の森はいつも町の外側、そしてソアの意識の外にあった。深く、神秘的な何か。森に迷い込んだ羊を追うことは、今だかつてどの羊飼いもしたことがなかった。ソアの父でさえそうだった。この場所にまつわる言い伝えは暗く、根強かった。

だが今日は何かが違った。ソアはもはやそれが気にならず、風に注意を向けていた。彼の中に、境界を広げ、家からできるだけ遠くへ行きたい、自分がどこへ連れて行かれるかは人生に任せようという思いがあった。

ソアは更に奥へと進んだ後、どちらへ進んだらよいかわからず足を止めた。足跡や、羊が通ったと思われる場所の枝が曲がっているのに気づき、そちらへ向きを変えた。しばらくしてまた曲がった。

1時間もしないうち、ソアは迷って途方に暮れてしまった。来た方角を思い出そうとしたが、もうわからない。不安で胃が落ち着かない。が、唯一の出口は前方にあると思い、進み続けた。

ソアは遠くに一筋の光を見出し、そこへ向かった。気づくと、わずかな開けた場所の手前に来ていた。その端で足を止め、根が生えたように動けなくなってしまった。自分の目が信じられなかった。

ソアに背を向けて、長く青いサテンのガウンをまとった男が目の前に立っていた。いや、人間ではない。立った位置からソアはそう感じ取った。別の何かだ。ドルイドかも知れない。背がすらりと高く、頭はフードで覆われ、微動だにしなかった。この世に注意を払うことなどないかのように。

ソアはどうしてよいかわからずに立ち尽くしていた。ドルイドは話に聞いていても、出会ったことはなかった。ガウンにつけられた印、丁寧な金の縁取りから、ただのドルイドではない。王家の印だ。国王の宮廷のものだ。ソアには理解できなかった。王家のドルイドがここで何をしているのだろう?

永遠のようにも思われる時間が経った後、ドルイドがゆっくりと振り返り、ソアに顔を向けた。ソアも彼の顔を認め、息が止まりそうになった。王国で最も知られた者の一人、国王のドルイドだったのだ。何世紀もの間、西の王国の王たちに相談相手として仕えてきたアルゴンだった。宮廷を遠く離れた暗黒の森の中で何をしていたのか、謎だった。ソアは自分の想像なのではないかと思った。

「今目にしていることは、思い違いなどではない。」アルゴンはソアを真っ直ぐに見つめながら言った。

まるで木々が話しているような、深みのある、遠い昔から響いてくるような声だった。彼の大きく透んだ目は、ソアを見通し、貫くようだった。ソアは、太陽の正面に立っているかのように、アルゴンが放つ強力なエネルギーを感じた。

ソアは直ちにひざまづき、頭を垂れた。

「わが君」と彼は言った。「邪魔をいたしました。申し訳ありません。」

国王の相談役への不敬は投獄または死に値する。ソアは生まれたときからそう教え込まれていた。

「小年よ、立ちなさい。」アルゴンは言った。「ひざまづいたほうが良いなら、私からそう言っていたであろう。」

ソアはゆっくりと立ち上がり、彼のほうを見た。アルゴンは数歩近寄ると、立ったままソアが居心地悪くなるほど見つめた。

「そなたは母親の目をしている。」とアルゴンは言った。

ソアは驚いた。自分の母親に会ったことも、父親以外に母のことを知っている者に会ったこともなかったからだ。母は出産の時に亡くなったと聞いていた。ソアはいつもそのことで罪の意識を感じていた。家族が自分を嫌うのもそのためだと思っていた。

「誰かと勘違いをされているのではないかと思います。」ソアは言った。「私には母はおりません。」

「母がいないと?」アルゴンは微笑みながら尋ねた。「男親だけで生まれたというのか?」

「わが君、母は出産のときに亡くなったという意味でございます。私のことを誰かとお間違えではと思います。」

「そなたはマクレオド族のソアグリン、4人兄弟の末っ子、選ばれなかった者であろう。」

ソアは目を大きく見開いた。どう解釈したらよいのか分からなかった。アルゴンのような位の高い者が自分のことを知っているとは。自分の理解を超えたことだった。村の外に自分のことを知っている者がいるとは考えたこともなかった。

「どうして・・・お分かりになるのですか?」

アルゴンは微笑んだが、答えなかった。

ソアは急に好奇心が湧いてきた。

「どうして・・・」ソアは言いかけたが、言葉に詰まった。「どうして私の母を知っておいでなのですか? どのように母に会われたのですか? 会ったことがおありですか? どんな人だったのですか?」

アルゴンは振り返り、歩き去った。

「次に会った時に質問しなさい。」と言った。

ソアは不思議な気持ちでアルゴンを見送った。目のくらむような、不思議な出会いだった。あっという間の出来事だった。アルゴンを行かせまいとして、急いで後を追いかけた。

「ここで何をなさっていたのですか?」ソアは急いで追いつこうとしながら尋ねた。アルゴンは古い象牙の道具を使って、速く歩いているように見えた。 「私を待っておられたのではありませんよね?」

「他に誰を待っていたというのじゃ?」アルゴンが尋ねた。

ソアは追いつくのに必死だった。開けた場所を後に、森に入って行った。

「なぜ私なのですか? なぜ私が来るとご存じだったのですか? 何が目的だったのですか?」

「質問が多い。」アルゴンは言った。「そなたばかりが話しているではないか。人の話も聞くのじゃ。」

ソアは、なるべくしゃべらないように努めながら、アルゴンの後を追い、深い森の中を通っていく。

「はぐれた羊の後を追ってきたのじゃな。」アルゴンが言う。「見上げたものだ。しかし時間の無駄であったな。生き伸びられないであろう。」

ソアは目を見開いた。

「どうしておわかりになるのです?」

「そなたが、少なくとも今はまだ知らぬ世界のこともわかるのじゃよ。」

ソアは、追いつこうとしながら考えた。

「話を聞こうとはしないのだな。それがそなたという者なのだ。頑固で。母親と同じだ。羊を助けようと追い続けるのであろう。」

ソアは、自分の考えをアルゴンに読まれて赤くなった。

「そなたは元気の良い若者じゃ。」アルゴンは更に言う。「意志が強く、誇り高い。良い性質だが、いつかそれで足をすくわれる。」

アルゴンは苔の生えた尾根を登り始めた。ソアは後を追う。

「国王のリージョンに入りたいのであろう。」アルゴンが言った。

「そうです!」ソアは興奮して答えた。「私にもチャンスはあるでしょうか?あなたが実現させることはできますか?」

アルゴンは笑った。深い、うつろな声にソアの背筋が寒くなる。

「わしは何でも起こせるし、何も起こせないとも言える。そなたの運命は既に決まっているのじゃ。選ぶのはそなた次第だが。」

ソアには理解できなかった。

尾根のてっぺんに着くと、アルゴンはソアのほうに顔を向けた。ほんの数フィートしか離れていなかったので、アルゴンのエネルギーがソアを焼き尽くすようだった。

「そなたの運命は重要なのだ。」アルゴンは言った。「運命を捨ててはいけない。」

ソアは目を大きく開いた。運命?重要?誇らしい気持ちがこみ上げてくるのを感じた。

「なぞかけのような話し方をなさるので、私にはよくわかりません。もう少し説明してください。」

突然、アルゴンが消えた。

ソアには信じられなかった。四方を見回し、耳をそばだて、考えた。全部想像だったのだろうか?妄想だろうか?

ソアは振り向いて木を調べた。この尾根の高みからはより遠くまで見ることができた。遠くに動くものが見えた。音を聞き、自分の羊だと確信した。

苔だらけの尾根を転げ下り、音のする方へ森を戻って行った。進みながら、アラゴンとの出会いがソアの頭から離れることはなかった。現実に起きたこととは思えなかった。ここで国王のドルイドが何をしていたのか、なぜここなのか? 彼は自分を待っていた。なぜだ?自分の運命とは何のことを言っていたのか?

なぞを解こうとすればするほど、わからなくなった。アラゴンは、進んではいけないと警告しながら、同時にそうするよう誘惑した。ソアは進みながら、何か重大なことが起こるような虫の知らせを感じていた。

曲がり角を回ったとき、眼前の光景を見て足が止まった。一瞬にして、悪夢が現実のものとなった。毛が逆立ち、この暗黒の森に足を踏み入れるという重大な過ちを犯したことを悟った。