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ソアと向かい合い、30歩と離れていない場所にサイボルドがいた。四足で立ち、のそりのそりと動く馬ほどの大きさの筋肉質の体は、暗黒の森、いや恐らく王国中で最も恐れられている動物のそれだった。ソアは実物を見たことはなかったが、話に聞いたことはあった。ライオンに似ているが、ずっと大きく、体は深い緋色、目は黄色く光っていると。赤い色は、あどけない子どもたちの血の色からきていると言うのが伝説だった。ソアは今までに何回かこの動物を見たという話を聞いたが、どれも疑わしいとも聞いていた。それはこの動物に出会って生きて帰った者がいなかったからであろう。サイボルドを森の神であり、何かの前兆だと考える者もいる。何の前兆なのか、ソアには全く考えが及ばない。
ソアは慎重に後ろへ下がった。
サイボルドは巨大なあごを半分開けながら立ち、牙からは唾液を垂らし、黄色い目でこちらを見ていた。口にはソアの迷子の羊をくわえて。羊は叫び声を上げ、体の半分を牙に切り裂かれて逆さにぶら下がっている。虫の息だ。サイボルドは獲物をゆっくりと楽しみ、拷問に喜びを見出しているかに見えた。
叫びを聞くのはソアには耐えられなかった。羊は震え、無力で、ソアは責任を感じた。
ソアは振り返って逃げたい衝動にかられたが、それが無駄だということもわかっていた。この動物は何よりも走るのが速いだろう。逃げたところで相手をより大胆にさせるだけだ。それに羊を見殺しにすることはできなかった。
立ったまま恐怖に凍りつきながら、何か行動を起こさねばならないことはわかっていた。ソアの運動神経にバトンが渡った。ゆっくりと袋に手を伸ばし、石を出すと、投石具にはめた。震える手でそれを引き、一歩前に出て石を投げた。空中を伝い、標的に当たった。完璧な投石だった。羊の目玉に当たり、脳を貫通した。
羊はぐったりとなった。死んだのだ。ソアは羊を苦しみから解放したのだった。
サイボルドは、自分のおもちゃをソアが殺したことに怒り、にらみつけてきた。巨大なあごをゆっくりと開け、羊を落とした。羊はバサッという音を立てて地面に落ちた。サイボルドはソアにねらいを定めた。
深く、邪悪な声を腹の底から出してうなった。サイボルドがソアに向かって歩き始めた時、ソアは心臓をどきどきさせながら次の石を投石具に置き、手を置いて再び撃つ準備をした。
サイボルドが疾走を始めた。それはソアが今まで見た中で何よりも速い動きだった。ソアは一歩前に進み出ると、サイボルドが自分のところに到達する前に次の石を投げる時間はないのを知りつつ、当たることを願いながら石を放った。
石は右目に命中し、相手を倒した。すごい投石だった。もっと小さな動物たちならばひれ伏すほどの。
だが、相手は小さな生き物などではなかった。獣を止めることはできない。負った怪我に金切り声を上げながらも、スピードを緩めることさえない。目を片方失い、脳に石を残し、それでも一心にソアを襲い続けた。ソアにできることはなかった。
一瞬の後に、獣はソアの上にいた。大きな爪でソアの肩を強打した。
ソアは叫んで倒れた。3本のナイフで肉を切り裂かれたようだった。熱い血がその瞬間どっと流れた。
獣はソアを四足で地面に押さえつけた。象が胸の上に立っているかのような、とてつもない体重だ。ソアは肋骨が砕かれるのを感じた。
サイボルドは頭を反らせ、口を大きく開けて牙を見せたあと、ソアの喉元めがけて下を向いた。
その瞬間、ソアは手を伸ばしてサイボルドの首をつかんだ。硬い筋肉を握るようなものだ。ソアはしがみつくこともほとんどできなかった。牙が下りてきた時、腕が震え始めた。ソアは顔一面にサイボルドの熱い息がかかるのを、首に唾液が流れてくるのを感じた。獣の胸の奥からごろごろ言う音が聞こえ、ソアの耳は燃えるようだった。死ぬのだ、と思った。
ソアは目を閉じた。
神様、お願いします。力をお与えください。この生き物と戦わせてください。お願いです。何でも言うことを聞きます。受けた恩に深く感謝いたします。
その時何かが起きた。ソアは体の中にとてつもない熱が起こり、血管を通じて流れるのを感じた。エネルギー場が自分自身の中をすべて駆け回っているようだった。目を開け、驚くべきものを見た。自分の手のひらから黄色い光が放出し、獣の喉に抵抗できるだけの驚異的な力を得て相手を寄せ付けなかった。
ソアは抵抗を続け、ついには相手を押し返した。力がみなぎり、砲弾のようなエネルギーを感じた。その直後にサイボルドを少なくとも10メートルは後ろに飛ばし、獣は背中から地面に落ちた。
ソアは起き上がった。何が起きたのかわからなかった。
獣は体勢を立て直し、憤然と突進してきた。今度はソアも前と違う。エネルギーが彼の全身を伝い、今までにないパワーを感じている。
サイボルドが空中に飛び上がった時、ソアは身をかがめ相手の腹をつかんで投げ、勢いにまかせて飛ばした。
獣は森の間を飛んで行き、木にぶつかって地面に落ちた。
ソアは驚いて振り返った。自分は今サイボルドを投げたのか?
獣は2回瞬きをした後、ソアを見て再び挑んできた。
今度は、獣がとびかかる瞬間ソアが喉元をつかんだ。双方とも地面に倒れこみ、サイボルドがソアにまたがった。が、ソアが転がり、獣の上になって相手を抑え、両手で窒息させようとした。獣は頭を上げて牙で噛み付こうとし続けたが、的を外した。ソアは新たな力を感じて手で押さえつけ、相手を離さなかった。エネルギーが自分の中を流れるのに任せると、驚くべきことに獣に勝る力を感じた。
サイボルドを窒息させ、死に追いやった。獣はぐったりとなった。
ソアはその後も1分間は手を離さなかった。
彼は息を切らしてゆっくりと立ち上がり、目を見開いて見下ろし、傷ついた自分の腕を抱きしめた。今起きたことが信じられなかった。この僕が、ソアが、サイボルドを殺したのか?
彼は、今日というこの日、これが印なのだと感じた。 重大なことが起きたように思えた。王国で最も知られ、最も恐れられている動物をし止めたのだ。たった一人で。武器を使わずに。本当のこととは思えなかった。誰も信じやしない。
彼はそこに立ち、めまいを感じながら、自分を圧倒したのは一体何の力だったのだろうと考えた。それは何を意味するのか、自分は本当は何者なのか。このような力を持つことで知られているのはドルイドだけだ。父も母もドルイドではない。自分がそうである訳がない。
それともそうなのだろうか?
ソアは突然背後に人の気配を感じた。振り返るとアルゴンがそこに立ち、動物を見下ろしていた。
「どうやってここまで来られたのですか?」ソアは驚いて尋ねた。
アルゴンは彼を無視した。
「今起きたことをご覧になったのですか?」ソアはいまだ信じられない思いで尋ねた。「自分でもどうやったのかわからないんです。」
「わかっておるのじゃろう。」アルゴンが答えた。「 自分の奥深くで。そなたは他の者とは違うのだ。」
「まるで・・・力がほとばしるようでした。」ソアは言った。「自分が持っているとは知らなかった力のような。」
「エネルギー場じゃな。」アルゴンが言う。「いつかよくわかる日が来る。それをコントロールすることさえできるようになるかも知れん。」
ソアは肩をつかんだ。耐え難い痛みだ。見下ろすと、手も血だらけだ。めまいがして、もし助けがなかったらどうなっていただろうと考えた。
アルゴンは3歩前に進んだ。手を伸ばしてソアの空いているほうの手をつかみ、傷の上にしっかりと載せた。そのままの状態で背を反らせ、目を閉じた。
ソアは腕に温かいものが流れるのを感じた。数秒でべとべとしていた血が乾き、痛みが消えていくのがわかった。
彼は見下ろし、信じられなかった。怪我が治っている。残ったのは爪で切られてついた3つの傷痕だけだった。それも傷が閉じていて、数日経過したように見える。血はもう出ない。
ソアはびっくりしてアルゴンを見た。
「どうやったらできるんですか?」彼は尋ねた。
アルゴンは微笑んだ。
「何もしておらん。そなたがしたのじゃ。わしはただそなたの力に指示をしたまでだ。」
「でも僕には治す力などありません。」ソアは当惑して答えた。
「そうかな?」アルゴンは答える。
「僕にはわかりません。起きていることの意味が全くわからないんです。」ソアはますますもどかしく思って言った。「どうか教えてください。」
アルゴンは目をそらした。
「時間をかけて理解していかなければならないこともある。」
ソアは何か思いついた。
「これは、私が王のリージョンに入隊できるということなのでしょうか?」興奮して尋ねた。「サイボルドを倒せるのなら、他の少年に引けを取らないでしょう。」
「確かにそうだろう。」とアルゴンは答えた。
「でも軍の人たちは兄たちを選んで、僕は選ばれませんでした。」
「そなたの兄たちにはこの獣は倒せなかっただろう。」
ソアは考えながら、見返した。
「でも、軍の人たちは僕のことを拒否したんです。どうしたら僕は入隊できるのでしょう?」
「いつから戦士は招待状が必要になったのじゃ?」アルゴンが尋ねた。
この言葉は深く染み込んだ。ソアは体が温かくなってくるのを感じた。
「招かれなくても、行けば良いということですか?」
アルゴンは微笑んだ。
「そなたの運命を切り開くのはそなたじゃ。他の誰でもない。」
ソアが瞬きをするや否や、アルゴンは消えていた。
ソアには信じられなかった。森のすべての方角を見回したが、アルゴンは跡形もなく消えていた。
「ここじゃ。」声が聞こえた。
ソアが振り返ると、巨大な岩が見えた。声はその上の方からすると気づき、すぐにそこへ登った。てっぺんに着いてもアルゴンの姿が見えず、当惑した。
が、この高みからは暗黒の森の木々の上から景色が見渡せた。暗黒の森の端が見え、二番目の太陽が深い緑色の中に沈んでいくのが、そしてその先に王の宮廷へと続く道が見えた。
「そなたはその道を通ることもできる。」声がした。「そうしようと思えば。」
ソアはぐるりと回ってみたが、何も見えなかった。声がこだましているだけだ。だがアルゴンがそこに、どこかにいて、彼をけしかけていることはわかっていた。そして心の底で、アルゴンの言うことが正しいのを感じていた。
もう迷うこともなく、ソアは岩を急いで下り、森を抜けて遠くの道へと進み始めた。自分の運命へと、全速力で。
第三章
マッギル国王は恰幅が良く、胸板が厚い。白髪交じりのあごひげが豊かで、広い額には数多く経てきた戦いでしわが刻まれている。王妃とともに城壁の上部に立ち、盛大な日中の祭事を見渡していた。王土は、国王のもとに栄華をきわめ、視野を埋め尽くすほどの広がりを見せている。繁栄する都市は古代からの石の要塞に囲まれていた。国王の宮廷。曲がりくねる迷路のような道でつながれて、様々な形と大きさの石の建造物が建っていた。それらは、戦士、番人、馬、シルバー騎士団、リージョン、衛兵、兵舎、武器庫、兵器工場、そして要塞都市の中に住むことを選んだ大勢の人々のための何百もの住居などである。こうした建物の間には、数エーカーもの草地、国王の庭園、石で縁取られた広場、噴水が広がっていた。宮廷は、国王の父君、そのまた父君によって何世紀にもわたり改良が行われてきた。そして今その栄華の頂点にある。リングの西王国中、最も安全なとりでであることは疑う余地がない。
マッギルは、あらゆる王たちが知る限り最も優秀かつ忠実な戦士に恵まれていた。攻撃をあえてしようという国もいまだかつてなかった。7代目として王位を継承したマッギル国王は、32年間国をうまく治めてきた賢く、良い王であった。彼の世に国は非常に繁栄し、軍隊の規模は2倍に拡大、都市が拡張した。民は豊かになり、国民から不満の声が聞かれることなどなかった。気前の良い王として知られ、彼が王位に就いてからの賜物と平和にあふれた世は、それまでにはなかった。
それは、逆にマッギルが夜眠れない理由でもあった。マッギルは歴史を知っていた。どの時代にも、これほど戦争のない時が長く続いたことはなかった。。もし攻撃を受けたらと考えることはもはやなく、むしろ、いつ受けるかと考えていた。そしてどこからか。
最も脅威に感じていたのは無論、リングの外である。辺境の地、ワイルド(荒地)を統治し、峡谷の向こう側、リングの外の民をすべて従属させた蛮人の帝国からの攻撃である。マッギルとそれ以前の7代の国王にとって、荒地が直接の脅威となったことはなかった。それは完璧な円を描くこの王国独特の地形、リング(環)によるものであった。幅1マイルもの深い峡谷によって外界と遮断され、マッギル1世の時代から活発なエネルギーの盾に守られて、ワイルドを恐れる理由などほとんどなかった。蛮人は何度も攻撃や盾の通過、峡谷の横断を試みたが、一度として成功したことはなかった。リングの内側にいる限り、彼も彼の民も外からの脅威はありえなかった。
が、それは内側からの脅威がないということではない。このところマッギルがまんじりともせずにいるのはそのためであった。それが日中、長女の結婚のための祝祭を行った目的であった。まさに、敵をなだめ、リングの東・西王国間の心もとない平和を維持するためにお膳立てされた結婚であった。
リングは、それぞれの方角に優に500マイルの幅があり、真ん中を山脈で仕切られて分断されている。これが高原である。高原の反対側に東王国があり、リングのもう半分を統治していた。宿敵マクラウド家が数世紀にわたってこの国を治め、マッギル家との不安定な休戦状態を終わらせようと常に画策してきた。マクラウド家は不満を抱えており、自分たちの王国が不毛の側の土地にあると信じ、その持分に満足していなかった。そして少なくとも半分はマッギル家に属するはずの山岳地帯全体の所有権を主張し、高原をめぐって争っていた。国境をめぐる小競り合いは絶え間なく、侵略の恐れも常にあった。
マッギルはそうしたすべてを思案し、悩んでいた。マクラウドは満足するべきである。峡谷に守られてリング内で安全が保証され、選んだ土地に国を構え、恐れるものもない。所有するリングの半分に満足すべきではないか。マッギルが軍隊を非常に強化してきたことが、マクラウドが歴史上初めて侵略を試みない唯一の理由だ。しかし、マッギルは賢い王であったので、地平線の向こう側に何かを感じ取った。この平和が長くは続かないことを知っていた。そのため自分の長女とマクラウド家の長男との結婚を決め、その日がやってきたのだった。
自分の真下には、王国の隅々から、高原の両側から来た、明るい色のチュニックを着た何千人もの召使たちが見えた。この要塞都市に、ほぼリング全体の人間が入って来ている。この国の民は、すべてが繁栄と国力を示すようにとの命を受け、何ヶ月も準備を進めてきた。これは結婚のためだけではない。マクラウドへのメッセージを送る日でもあるのだ。
マッギルは、城壁、街路、都市の外壁に沿って、戦略的に配置された何百人もの兵士の閲兵を行った。兵士の数は必要を上回っていたが、それで満足だった。国力を顕示するのが希望だった。その一方で緊張もしていた。小競り合いが起こる環境が整っている。いずれの側にも、酒にあおられてけんかを始める、短気な者のいないことを願った。騎馬試合場、運動場に目をやり、競技、騎馬試合などのあらゆる祭事が行われるこれからの日々に思いを馳せた。闘いは激しくなるだろう。マクラウドが小規模な軍隊を引き連れてくることは必至で、騎馬試合、レスリング、その他全ての競技が意味を持つだろう。一つでも不首尾に終われば、争いに発展する可能性もある。
「陛下?」
やわらかい手の感触を自分の手に感じ、王妃クレアのほうを向いた。彼が知る限り、最も美しい女性である。王位についてからこのかた幸福な結婚生活を送り、3人の男子を含む5人の子どもに恵まれた。王妃が不平を漏らしたことは一度もなく、王が最も信頼する相談相手にもなっている。年月を経て、王妃が自分の家来の誰よりも賢明であると思うようになった。自分よりも賢いとさえ。
「政治的な日ですわね。」王妃は言った。「でも私たちの娘の婚礼でもあるのですよ。楽しみましょう。二度とない日なのですから。」
「何もなければこれほど心配はしない。」王が答える。「私たちがすべてを手にした今、何もかもが心配の種だ。我々は安全ではあるが、安全だという気がしないのだ。」
王妃は同情をこめて、大きなはしばみ色の目で彼の方を眺めた。二人はこの世の知恵をすべて備えているように見える。王妃はいつも伏目がちで、少し眠たげにも見える。顔の両側を縁取っているのは、美しい、真っ直ぐな茶色の髪で、いくらかグレーも混ざっている。しわが少し増えたものの、昔とちっとも変わらない。
「それは、あなたが安全でないからだと思いますわ。」彼女は言った。「安全な王などいません。この宮廷にはあなたの知る由もないくらい、大勢のスパイがいます。それが世の常でしょう。」
王妃はかがんで彼にキスをし、微笑んだ。
「楽しみましょう。」彼女は言った。「結婚式なのですから。」
そう言って王妃は振り向くと、歩いて城壁から出て行った。
王は彼女が出て行くのを見つめ、それから宮廷の外を見た。彼女は正しかった。いつだってそうだ。彼も楽しみたかった。一番上の娘を可愛がっていたし、何と言っても婚礼である。春の盛り、夏が明けようという、一年のうち最も美しい季節。2つの太陽が空に上がり、そよ風が吹く季節の、最も美しい日なのだ。全ての花が咲き誇り、木々はどれもピンク、紫、オレンジそして白のパレットのようだ。下に下りて家来たちと共に娘の結婚に立会い、これ以上は無理だというくらいエールを飲む。そうしたかった。
それでも彼にはできなかった。城を一歩出る前にしなければならないことがたくさんあった。結局、娘の婚礼の日というのは王としての義務があることを意味する。諮問会の顧問たち、子どもたち、そしてこの日に王との拝謁を許された大勢の嘆願者たちに会わねばならない。日没の儀式に間にあうよう城を出られたら幸運だと言えよう。
*
最も上質な王衣、黒のベルベットのズボンに金のベルト、紫と金の最高の絹でできた王のガウンに身を包み、白のマントを羽織る。すねまでの丈の光沢のある革のブーツを履き、中央に大きなルビーをはめた華麗な金環状の王冠をいただいたマッギル国王は、従者たちに両脇を囲まれて、城内の廊下を堂々と歩いた。欄干から階段へと降り、謁見室を横切って、部屋から部屋へ進み、ステンドグラスが並び、高い天井とアーチを持つ大広間を通過した。最終的に、木の幹のように分厚い古い樫材の扉にたどり着いた。従者が扉を開け、それから脇へ退いた。王座の間である。
王の顧問団はマッギル国王の入室時、直立不動の姿勢で迎えた。扉は王の背後で閉じられた。
「着席。」王は言った。普段よりも唐突である。彼は疲れていた、今日は特に。国を統治するための、果てしなく続く形式的行為。それを片付けてしまいたかった。
王座の間の端から端まで歩いた。この部屋にはいつも感嘆させられる。天井は50フィートの高さで、壁一つは全面ステンドグラスのパネルになっている。石でできた床や壁は厚さ1フットもある。百人の高官が楽に入る。だが今日のような日に諮問会が召集されると、がらんとした部屋に王と一握りの顧問がいるだけだった。部屋で圧倒的に場所を占めているのは半円形の広いテーブルで、その向こう側に顧問団が立っていた。彼は中央に開いた場所を通り、王座へと進んだ。金色のライオンの彫刻を通り過ぎて石段を登り、純金の王座を縁取る紅のベルベットのクッションに沈むように座った。父も、その父も、これまでのマッギル一族はすべてこの王座に座ってきた。ここに腰掛ける時には先祖の重みを感じた。すべての世代の、そして特に自分自身にかかる重みを。