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老人は向こうを向いて唾を吐き捨て、荷馬車に急いで戻り、馬に鞭を当てた。ソアはひどく恥ずかしい思いをしたが、ゆっくりと落ち着きを取り戻し、立ち上がった。周りを見回すと、通行人が1人2人くすくすと笑っている。ソアは相手が目をそらすまであざ笑って返した。ほこりを払い、腕を拭いた。誇りが傷ついたが、体のほうは大丈夫だった。
辺りを見回して圧倒され、こんなに遠くまでやって来られただけで満足するべきだと考えているうちに元気を取り戻した。荷馬車を降りたので、自由に見て回ることができる。確かにすごい光景だった。宮廷は視界いっぱいに広がっている。中心に壮大な石造りの宮殿が建ち、塔や石のとりでに囲まれ、胸壁がそびえている。その上では国王の軍隊があちこち巡回をしている。 ソアの周りには手入れの行き届いた芝生や、石造りの広場、噴水や潅木があった。都市だ。人であふれている。
様々な人たちがそこここを歩いている。商人、兵士、高官、皆急いでいる。何か特別なことがあるのだとわかるまで何分かかかった。ソアはぶらぶらと歩きながら、椅子を置いたり祭壇をしつらえたり、といった準備が行われているのを見た。婚礼の準備が行われているようだ。
遠くに騎馬試合場と土の道、仕切り用の綱が見えた時、彼の心臓は一瞬止まった。別の競技場では、兵士たちが槍を遠くの的に向かって投げ、また別のところでは射手がわらをねらっているのが見えた。どこでも試合や競技が行われているように見える。音楽もある。リュート、フルート、シンバル。演奏者の集団がうろうろしている。ワインもだ。大きな樽を転がして出してきた。そして食べ物。テーブルが準備され、見渡す限りごちそうが並べられている。まるでソアは盛大な祝い事のさなかに到着したようだ。
目がくらむようなことばかりの中で、ソアはリージョンを急いで見つけなければと思った。既に遅れを取っているのだから、早く自分のことを知らしめなければならない。彼は最初に目に入った年配の男の人に急いで近づいた。血のついた仕事着を着ているところからすると肉屋のようだ。道を急いで行く。ここでは誰もが急いでいる。
「すみません。」ソアは男の人の腕をつかんで言った。
男はソアの手を非難がましく見た。
「何だね、坊や?」
「僕は国王のリージョンを探しているんです。訓練がどこであるかご存じですか?」
「わたしが地図に見えるかい?」男はなじるように言うと、さっさと行ってしまった。
ソアは、男があまりに粗野なのに驚いた。
そして次に見えた、長テーブルで小麦粉をこねている女の人に近づいた。テーブルでは何人もの女の人たちがいて、忙しそうに働いていた。ソアはそのうちの誰かが知っているに違いないと思った。
「すみません。」彼は言った。「国王のリージョンがどこで訓練しているか、ご存じありませんか?」
皆互いに顔を見合わせてくすくす笑った。何人かは自分より2、3歳上なだけだ。
年長の女性がこちらを向いて彼を見た。
「探す場所を間違えてるわよ。」と彼女は言った。「ここじゃみんなお祝いの用意をしているんだから。」
「でも、王様の宮廷で訓練をしているって聞いたんです。」ソアは混乱して言った。女の人たちはまた笑った。年長の人が腰に手を当てて首を振った。
「あんた宮廷に来たのが初めてみたいなことを言うね。どんなに広いか知らないの?」
ソアは他の女の人たちが笑うので赤くなり、そそくさと逃げた。からかわれるのはごめんだ。
目の前に、宮廷を貫くようにすべての方向に向かって曲がりくねった道路が12本もあるのが見えた。少なくとも12箇所の入り口が、石の壁に間隔を置いて造られている。この場所の規模や範囲といったら実に圧倒的だ。何日探しても見つからないんじゃないか、と落ち込んだ。
ある考えが浮かんだ。兵士なら、他の兵士がどこで訓練しているか知っているだろう。実際の国王の兵士に近づくのは緊張するが、そうするしかないと思った。
振り返って、壁の方へ、最寄の入り口で警護をしている兵士のもとへと急いだ。追い返されなければ良いな、と願いつつ。兵士は直立不動で立ち、まっすぐ前を見ていた。
「僕は国王のリージョンを探しています。」ソアはできるだけ勇気のこもった声を振り絞って言った。
兵士は彼を無視してまっすぐ前を見続けている。
「王様のリージョンを探している、と言っているんですが!」ソアは気づいてもらえるように大きな声でしつこく言った。
数秒後、兵士はあざ笑いながらこちらを見下ろした。
「どこにいるか教えてくれませんか?」ソアはせがんだ。
「何の用があるのだ?」
「とても大切な用です。」ソアは兵士が自分を押しのけないようにと願いながら、せきたてるように言った。
兵士はもとの状態に戻って再びソアを無視し、まっすぐ前を見た。彼は、答えてもらえることはないだろうと思ってがっかりした。
しかし、永遠とも思える時間が経った後に兵士が答えた。「東門から出て、北に向かって出来る限り遠くまで行く。左から3番目の門を通って、それから右側の分かれ道を行く。もう一度右側の分かれ道を行って、二番目の石のアーチを通り過ぎる。訓練場は門の向こうだ。言っておくが、時間の無駄だ。よそ者は相手にしないからな。」
ソアが聞かなければならなかったことはすべて聞けた。少しもひるまずに、ソアは振り返って広場を横切って走り出した。行き方を頭の中で反復し、暗記しようとしながら、指示に沿って行った。太陽が高く昇っているのに気づいた。着いたときにもう遅くなければよいが、とそれだけを祈っていた。
*
ソアは、宮廷を通る整然とした貝で縁取られた小道を、くねくね曲がりながら全速力で走っていった。迷わないようにと願いながら、指示通りに行くよう努めた。宮廷のずっと奥まで行き、門が立ち並ぶ中、左から3番目を選んだ。そこを通って走り、分かれ道をたどって、道という道を下って行った。毎分増えていくように思われる、街に入る数千人の人の流れに逆らって走った。リュート奏者や曲芸師、道化師、その他美しく着飾ったあらゆる種類の芸人たちと肩が触れ合った。
ソアは選抜が自分なしで始まるということは考えただけで我慢できず、訓練場への道しるべはないかと探し、道から道へと進むことに全力で集中した。アーチをくぐり抜け、また別の道を曲がり、そして遠くに唯一の目的地を見つけた。石造りの、完璧な円を描いた小規模な競技場だ。中央に巨大な門があり、兵士が警護している。ソアは壁の向こう側から応援する声が小さく聞こえ、胸が高鳴った。ここだ。
ソアは疾走した。肺が張り裂けそうだ。門のところまで来ると、2人の衛兵が前に進み、槍を下げて道を塞いだ。3人目の衛兵が歩み寄って手の平を出した。
「そこで止まりなさい。」衛兵が命令した。
ソアは、興奮を抑えることができず息を切らしながら止まった。
「あなた方は・・・ご存じ・・・ないでしょう。」ソアはあえぎながら言った。呼吸の合間に言葉がこぼれ出る。「中に入らないとならないのです。遅れてしまって。」
「何に遅れたのだ?」
「選抜です。」
背が低く、重そうなあばた顔の衛兵が振り返って他の兵士のほうを見た。皆は皮肉っぽく見返した。彼はこちらを向きソアをさげすんだ目でじろじろと見た。
「新兵は王室の車両で数時間前に入った。招かれていなければ、中には入れない。」
「でも、あなたはご存じないが、僕は入らないと・・・」
衛兵は手を伸ばしてソアのシャツをつかんだ。
「わかっていないのはお前のほうだろう。生意気なやつめ。どうしたらおめおめとここへ来て無理やり入ろうとするなどということができるのだ?手枷をかけられる前にとっとと行け。」
衛兵はソアを押しのけた。ソアは数フィート後ろまでよろめいた。
衛兵の手が触れた胸の辺りが痛んだ。それよりも、拒絶された痛みを感じた。ソアは憤りを感じた。会ってももらえずに衛兵に門前払いを食わされるために、はるばるここまで来た訳ではない。中に入る決意は固かった。
衛兵は他の兵士のほうを向いていた。ソアはゆっくりと離れ、円形の建物を時計回りに進んだ。彼には計画があった。衛兵たちから見えなくなるまで歩くと、壁に沿ってこっそり進みながら突然走り出した。衛兵が見ていないことを確かめてから、スピードを上げて全力で疾走した。建物の半分ぐらいまで来たところで競技場に続く別の入り口を見つけた。はるか上の方、石の壁にアーチ型にくりぬかれた部分があり、鉄の柵で遮られている。その入り口の一つは柵がなかった。また大きな声が湧き起こるのが聞こえ、壁の出っ張りに上って中を見た。
心臓の鼓動が速くなった。広大な円形の訓練場に、兄たちも含めた数十人の新兵が広がっていた。列になって、12人のシルバー騎士団員のほうを向いている。兵士たちがその間を歩き、説明をしている。
新兵の別のグループは、兵士が監視するなか、離れたところで遠くの的に向かって槍を投げている。一人は的をそらした。
ソアの血管は憤りで熱くなった。自分ならあの的を射ることができただろう。彼らと同じようにうまくできるのだ。単に若くて少し小柄だというだけで外されるのは不公平だ。
突然、ソアは背中に手が置かれるのを感じた。かと思うと、ぐいと引っ張られ、宙を飛んだ。下の地面に強く叩きつけられ、息もできなくなった。
見上げると、門のところの衛兵があざ笑いながらこちらを見下ろしている。
「さっき私は何と言った、小僧?」
反応する前に衛兵がかがみ込んでソアを強く蹴りつけた。衛兵がもう一度蹴ろうとした時に、ソアはあばら骨に鋭い衝撃を感じた。
今度はソアが衛兵の足を空中でとらえて引っ張り、バランスを崩させ、転倒させた。
ソアはすぐに立ち上がった。同時に衛兵も立ち上がった。ソアは立って睨み返しながら、自分がしてしまったことに衝撃を受けていた。衛兵が反対側からこちらを睨んでいる。
「手枷をはめるだけでは済まないぞ。」と衛兵は言った。「このつけは払ってもらう。国王の衛兵には誰も手出しをしてはならないのだ!リージョンの入隊はあきらめるんだ。お前は牢屋行きだからな!生きて出てこられたらついていたと思え!」
衛兵は手枷のついた鎖を出した。復讐の念をあらわにしながら、ソアに近づいた。
ソアの心は騒いだ。手枷をはめられる訳にはいかない。だが、国王の衛兵を傷つけたくはない。何か方法を考え出さねば、しかもすぐに。
彼は投石具を思い出した。反射的にそれをつかむと、石を置き、ねらいを定めて飛ばした。
石は空高く飛び、手枷を打ち、驚いている衛兵の手から落とさせた。石は衛兵の指にも当たった。衛兵は痛みに叫び声を上げながら、手を引っ込めて振り、手枷が地面に音を立てて落ちた。
衛兵はソアに殺意に満ちた目を向け、剣を抜いた。特徴のある金属の環とともに。
「最後に過ちを犯したな。」そう脅すと、突進してきた。
ソアには選択肢はなかった。この男は自分を生きて返すつもりはない。投石具にもう一つ石を置き、投げた。慎重に的を絞った。衛兵を殺したくはなかったが、攻撃をやめさせなければならない。心臓や鼻、目、頭をねらう代わりに、相手を殺さずに止められると分かっている場所をソアはねらった。
衛兵の両脚の間だ。
石を飛ばした。あまり強過ぎず、相手を倒すことができるくらいの強さで。
的を完璧に射た。
衛兵は倒れ、剣を落とした。股間を押さえながら地面に倒れ、うずくまった。
「絞首刑になるぞ。」彼は痛みにうめきながら言った。「衛兵!衛兵!」
ソアが見上げると、国王の衛兵が数人、彼の方へ向かって走ってくるのが見えた。
一瞬も無駄にせず、ソアは窓の出っ張りまで走った。競技場に飛び降りなくてはなるまい。そして自分を知らしめるのだ。そして自分の前に立ちはだかる者とは誰とでも戦うつもりだ。
第五章
マッギルは城の上階にある、非公式の会合用の広間に座っていた。私的な用事に使う部屋である。彼は木彫りの自分の席に座り、自分の前に立っている4人の子どもたちに目をやった。長男のケンドリック、25歳の良き戦士で真のジェントルマンである。彼はマッギルに最も良く似ていた。皮肉なことだった。ケンドリックは非嫡子だったからである。マッギルと別の女性との間に生まれた唯一の子どもである。マッギル自身長いこと忘れていた女性である。王妃は最初反対したが、マッギルは彼を自分の本当の子どもたちと一緒に育てた。王位を継承しない、というのが条件だった。ケンドリックが自分の知る限り最も素晴らしい男、父として誇りに思う息子に育った今では、それがマッギルの頭痛の種である。彼よりも良い王国の継承者は出ないだろう。
隣には、対照的な二番目息子がいる。嫡子としては長男であるが。23歳のガレス、やせて頬はこけ、大きな茶色の目は常に落ち着きなく動いている。兄とは、これ以上かけ離れることはないだろうというほど性格が異なる。ガレスの性格はすべてケンドリックならこうではない、というものだった。ケンドリックが率直なら、ガレスは自分の考えを出さないほうであった。兄が気高いのに対し、ガレスは不正直で人を騙すところがあった。マッギルにとって自分の息子を嫌うのは辛いことであったので、性格を直すようずいぶん努力した。しかし、10代のある時期から彼の性格は持って生まれたものとしてあきらめた。狡猾で、権力欲があり、悪い意味で野心があった。また、女性に興味がなく、彼には男性の恋人が大勢いることもマッギルは知っていた。他の王ならそのような息子は追放していたであろう。しかしマッギルは心の広い人であったので、このことは息子を嫌う理由にならなかった。このようなことでは人を判断しなかった。判断材料になったのは彼の悪意やはかりごとをする性格であり、これは見過ごすことができなかった。
ガレスの隣に並んでいるのは、二番目の娘、グウェンドリンである。16歳になったばかりで、マッギルが今までに見たなかで最も美しい少女だ。そしてその性格は外見をしのぐ。親切で、寛大、正直だ。彼が知る若い女性の中で最も素晴らしい娘である。そういう意味ではケンドリックと似ていた。彼女は父を慕う心でマッギルを見、彼はいつもグウェンドリンの忠実さを感じていた。息子たちよりも彼女のことを誇りに思っているくらいだった。
グウェンドリンの脇に立っているのはマッギルの末の息子、リースである。誇り高く、元気の良い少年だ。14歳で大人になり始めたところだ。マッギルは彼がリージョンに入隊したのをとても喜び、どんな大人になるか先が見えるようであった。いつかリースが最高の息子、そして偉大な為政者になることにマッギルは何の疑いも抱いていない。しかしそれは今ではない。彼はまだ若く、学ぶべきことも多い。
マッギルは目の前に立つこの4人の子どもたち、3人の息子と娘1人を見ながら、複雑な気持ちであった。誇り高い気持ちと失望が混ざっていた。また子どもたちのうち2人が欠けていることにも怒りと困惑を感じていた。一番上の娘ルアンダはもちろん自分の結婚式の準備がある。彼女は別の王国に嫁ぐのであるから、後継者を決めるこの話し合いには関係がない。しかしもう一人、真ん中の息子で18歳のゴドフリーがいなかった。マッギルはその冷たい態度に憤りで顔を真っ赤にした。
子どもの頃からゴドフリーは、王というものに対し敬意を表わさなかった。王位に興味がなく、国を治めるつもりがないのは明らかだった。マッギルを失望させたのは、ゴドフリーがごろつきと酒場に入り浸る日々を過ごし、王室の恥と不名誉になっていることだった。怠け者で、ほとんどの日を昼間も寝ているか、または酒を飲んでいるかして過ごしていた。マッギルは彼がこの場にいないことに安堵する一方で、我慢ならない侮辱だとも感じていた。実際、マッギルはこのような事態を予測し、家来たちに早くから酒場をくまなく探し、連れ戻すよう命じていた。マッギルは座ったまま黙って、家来たちが来るのを待った。
重い樫の扉が音を立てて開き、王室の衛兵がゴドフリーを間にはさんで連れて入ってきた。兵士たちがゴドフリーを押して前に進め、後ろで扉を閉めると、彼は部屋によろめきながら入ってきた。
子どもたちはそちらを向いて見つめた。ゴドフリーはだらしなく、エールのにおいをさせていた。ひげも剃らず、服もきちんと着ていない。彼は微笑み返した。不作法なのもいつもと同じだ。
「やあ、父さん。」ゴドフリーは言った。「楽しいことはもう終わったかな?」
「お前は兄弟たちと一緒に立って、私が話すのを待ちなさい。そうしなければ、神にかけて言うが、私が鎖につないで牢屋に入れる。普通の囚人と一緒だ。エールどころか、3日間食事も出ないぞ。」
ゴドフリーはそこに立ち、父親のほうを挑戦的に睨み返した。そのまなざしの中に、マッギルは深い力の源泉、マッギル自身の何か、いつかゴドフリーの役に立つ何か光るものを見出した。彼が自分の性格を克服できれば、だが。
最後まで反抗的な態度でいたが、10秒もするとゴドフリーは結局折れて他の者のところへゆっくり歩いて行った。
全員が揃ったので、マッギルは5人の子どもたちを見た。非嫡子、逸脱した者、大酒飲み、娘、そして末っ子。この変わった取り合わせが、皆自分から生まれたのだとは信じ難かった。そして今、長女の結婚式にこの中から後継者を選ぶ責務が彼にのしかかっていた。どうしてそんなことができよう?
無意味な習慣だった。マッギルは全盛期にあり、あと30年は国を治めることができる。今日誰を後継者に選んだとしても、あと数十年間は王位につくことがない。伝統が彼を苛立たせていた。先祖の時代には有効だったかも知れないが、今の時代には合っていない。
彼は咳払いをした。
「今日私たちは伝統的儀式のために集まった。知ってのとおり、今日私の長女の結婚式にあたり、後継者を指名する仕事が私にはある。この王国を治める継承者だ。もしわたしが死んだら、お前たちの母親よりも統治にふさわしい者はいないが、王国の法律では王の子どものみ継承を許される、とある。そのため、私は選ばなければならない。」
マッギルは考えて、一息ついた。重い沈黙が立ち込め、期待の重さを感じた。皆の目を覗き込み、それぞれが異なるものを表現しているのを見た。非嫡子は自分が選ばれないのを知っていて、もうあきらめているのが見て取れた。逸脱した者の目は、まるで自分が当然選ばれるとでも思っているかのように、野心でギラギラしていた。大酒のみは窓の外を見ていた。どうでもよいのだ。娘は、この話に自分は加わっていないとわかっていて、いずれにせよ父親が好きだという目でこちらを見ていた。末っ子も同じだった。
「ケンドリック、私はいつだってお前のことを本当の息子だと考えてきた。しかし王国の法律で嫡出でない者には王位を授けられない。」
ケンドリックはお辞儀をした。「父上、私は父上が私に王位を授けられるとは思っておりませんでした。自分の立場に満足しております。このことで頭を悩ませたりなどなさらないでください。」
マッギルは、この返事に心が痛んだ。ケンドリックの純粋さを感じ、自分としても彼を一層後継者に指名したくなったためである
「これで候補者は4人となった。リース、お前はとてもよい、最高の若者だ。しかし、この話をするには若すぎる。」
「私もそう思っておりました、父上。」リースは頭を下げながら答えた。
「ゴドフリー、お前は私の3人の嫡子の一人だ。だが、お前は酒場で日々を無駄に過ごし、道徳的に堕落している。生活する上での特権はすべて与えられていながら、それをはねつけている。私が人生で失望していることがあるとすれば、それはお前だ。」
ゴドフリーは居心地悪そうに動きながら、顔をゆがめた。
「じゃあ、これで俺の役目も終わりだな。酒場に戻ったほうがよさそうだな、父上?」
尊敬の念に欠けたお辞儀を素早くしたかと思うと、ゴドフリーは振り返り、部屋を横切って行った。